「原田和典 ブログ人」

カテゴリ:映画( 94 )




バスキア、10代最後のとき

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映画『バスキア、10代最後のとき』の試写に行きました。原題は『Boom For Real : The Late Teenage Years of Jean-Michel Basquiat』、監督はサラ・ドライヴァー。ジャン=ミシェル・バスキア没後30年を記念しての日本公開です。
「70年代後半から80年代初頭のバスキアを知る面々の回想録を中心にしながら、少年バスキアが芸術家バスキアになっていくまでの歩みをたどる」、といった感じでしょうか。グラフィティ・アートのこと(初期のヒップホップはこれとラップとスクラッチとブレイクダンスの四者一体で語られていました)、グラフィティ・アート・ユニット“SAMO”のこと、ヴィンセント・ギャロらと組んでいた幻のバンド“グレイ”のこと(バスキアはサックスやクラリネットを担当)、個人的にはドキュメンタリー作品『ヘンリー・ゲルツァーラー ポップ・アートに愛された男』も印象深かった目利きヘンリー・ゲルツァーラーのことなど、「これをしっかり知りたかったんだ」というところを的確に押さえてくれます。もちろん、あの時代の、今はもう跡形もないといっていいであろう、「ヤバいニューヨーク」の画像や映像もたっぷりです。
ヒップホップ・カルチャーの生き証人とも呼ばれるファブ・5・フレディの発言もとても興味深いものでした。「俺の名付け親は(ドラマー)のマックス・ローチだ」と語り、ローチも参加している『ジャズ・アット・マッセイ・ホール』をバスキアに聴かせ、彼の関心をビ・バップに向けたのだそうです。サックス奏者チャーリー・パーカーとトランペット奏者ディジー・ガレスピーの壮絶なつばぜりあいに、バスキアはラップ・バトルに通じる興奮を感じたのだとか。ぼくはバスキアのドキュメンタリー(名前は忘れてしまいました)で、彼が『オーニソロジー』という、チャーリー・パーカーやタッド・ダメロンの入った英国スポットライト盤のLPをかけて創作している場面を見たことがありますが、それにしてもバスキアの死は早すぎました。まさに「夭折」です。
画面の中で彼を回想しているのは、生き永らえ創造の苦しみと闘い続けているひとたち。自分が若い頃なら「早く逝った者」に共感とかっこよさを覚えましたが、加齢するごとに複雑な気持ちが増して今に至る、というのが正直な気持ちです。今、バスキアの遺したアートは約64億円で落札されるまでになっています。12月22日よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。173.png





by haradakazunori | 2018-11-13 11:08 | 映画

恐怖の報酬【オリジナル完全版】

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数奇な運命に彩られた映画『恐怖の報酬』が制作から41年を経て、オリジナル完全版として遂に日本公開されます。その試写に行きました。監督はウィリアム・フリードキンです。
原題は『Sorcerer』。マイルス・デイヴィスの同名アルバムから拝借したとのことです。音楽は基本的にプログレッシヴ・ロック・グループのタンジェリン・ドリームが担当していますが(工程上、画像を観る前、脚本に基づいて作曲したそうです)、ほかにもマイルス「ソー・ホワット」のアドリブ部分をトレースしたような楽曲が出てきたり、さらにキース・ジャレットやチャーリー・パーカーの演奏も(レコードから)挿入されるなど、ジャズファンにとっても非常に気になる瞬間が続きます。とくにキースは当時の最新作『Hymns/Spheres』からのナンバーを、ECMレコードの許可を取って挿入するという素早さです。
原作はジョルジュ・アルノー、脚本はウォロン・グリーン。物語の鍵を握る4人の男(ロイ・シャイダー、ブルーノ・クレメル、フランシスコ・ラバル、アミドゥ)は心に深い闇を抱えながらそれぞれ別の土地から「ここ」にやってきて、偽名を使いながら、「ここ」から逃れるため命がけの仕事につきます。相手をどこまで信用していいのか、どこまで意思の疎通をすべきか、だがあまり心を許したら寝首をかかれるかもしれないぞ、など様々な思いが、4人の表情、抑えに抑えたセリフなどからうかびあがってきます。爆発のシーン、吊り橋のシーンは文字通りの圧巻。不安を掻き立てるようなカメラ・ワークも絶品です。CGなどない時代の、アコースティックでナチュラルな迫力に目を丸くしていただきたいと思います。
かつて公開されたりビデオ化されたりした当映画は、フリードキン監督の意志に関係なく短縮されていたヴァージョンでした。「でたらめにカットされていたものが、ついに完全版として蘇ったのだ」と彼は語っています。短縮版を見た方も今回が初体験の方も、このタフで容赦なき世界は抜群のインパクトで迫ってくることでしょう。11月24日からシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町でロードショー。149.png






by haradakazunori | 2018-11-07 10:01 | 映画

THE COLLECTORS~さらば青春の新宿JAM~

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映画『THE COLLECTORS〜さらば青春の新宿JAM〜』の試写に行きました。監督・編集・撮影は川口潤(『山口冨士夫/皆殺しのバラード』が印象に残っています)。主役は1986年結成のロック・バンド、ザ・コレクターズです。
ザ・コレクターズが最初にワンマンライブを行なった場所こそ、当時できて数年しか経っていなかった「新宿JAM」でした。その「JAM」が建物老朽化を理由に取り壊しが決まったのが2017年7月のこと。年内いっぱいで閉店とアナウンスされました。12月24日に行なわれた「JAM」のクロージング公演はザ・コレクターズのワンマンでした。3月には武道館公演を行なった彼らが、一転、百数十名の前で、80年代のレパートリーを繰り広げる奇跡のステージ。映画はその模様を挿入しつつ、「日本の80年代モッズ史」、「ファッションへのこだわり」、「映画『さらば青春の光』から受けた衝撃」等に話を拡げていきます。奇跡的に残っていた80年代の新宿ロフト公演や、前身バンド“ザ・バイク”のライブを捉えた映像も超貴重です。不勉強にして、登場人物の発言を通じて、ぼくは真島昌利がブルーハーツやザ・クロマニヨンズの前にザ・ブレイカーズでモッズ的なサウンドを追求していたことを初めて知りました。ソレイユに提供した名曲「恋するギター」と、一本の線でつながったという感じです。
「当時はインディーズとメジャーの差が限りなく大きかったから、まずメジャー・デビューしなければと思った。いい音楽をやっている自信があるし、ルックスも自分たちではいいと思っていたから、オリコンの1位から5位まで独占するんじゃないかと思っていた」「武道館でやっても、それは自分が求めている達成感とは違っていた」(メモを取って観たわけではないので、ぜひ実際の画面で発言のニュアンスをご確認いただければと思います)等、フロントマンの加藤ひさしの話は実に率直です。11月23日から新宿ピカデリー他でロードショー。その前の11月7日には通算23枚目のオリジナル・アルバム『YOUNG MAN ROCK』がリリースされます。169.png




by haradakazunori | 2018-10-24 09:57 | 映画

不滅の女

アラン・ロブ=グリエの監督デビュー作『不滅の女』の試写に行きました。遠藤賢司の名曲に「不滅の男」がありますが(アントニオ猪木に捧げられた)、こちらは1963のフランス、イタリア、トルコの合作映画です。出演はフランソワーズ・ブリオン、ジャック・ドニオル=ヴァルクローズ、カトリーヌ・ロブ=グリエ等。
まばたきひとつしない美女の、まさしく人形のような顔がクローズアップされます。死んだはずのひとが生き返ったり、意味深なセリフが連続したり。部屋に対する海の高さ、モノクロ画面に見事に映し出された太陽の輝きと暗い夜道の対比。静謐なのに、やけに情報の多い映画です。そこも強く印象に残りました。
トルコのエキゾチックな音楽が随所にフィーチャーされているのも個人的には魅力でした。この雰囲気、音楽に触れてぼくが思い出したのはエリザベス・テイラーが出演した『クレオパトラ』ですが、あちらも63年の制作。偶然なのかどうか、じっくり調べてみたいものです。
人形のような美女は、ストーリーの終盤にも登場します。幾通りにでも解釈できそうな筋書きですが、カギを握るのは、どこかタモリに似た謎の男・・・というのがぼくの見解です。皆さんはどうお感じになるでしょうか。特集「アラン・ロブ=グリエ レトロスペクティブ」中の一策として、11月23日から東京・シアターイメージフォーラムほか全国で順次開催。




by haradakazunori | 2018-10-23 12:00 | 映画

ヨーロッパ横断特急

 
11月下旬から東京・シアターイメージフォーラム「アラン・ロブ=グリエ レトロスペクティブ」と題する特集上映が行なわれます。その試写にいきました。
ロブ=グリエは1922年フランス生まれ。小説家として頭角を現し、60年には『去年マリエンバートで』(アラン・レネ監督)で脚本を担当。63年に『不滅の女』で監督デビューを果たしました。
『ヨーロッパ横断特急』はフランスとベルギー合作、1966年の作品。舞台はパリからアントワープにかけて、です。上映当時“難解だ”という声もあがっていたようですが、劇中劇の中にまた劇中劇があり、さらにその中に劇中劇が盛り込まれるような展開は実に面白くバリエーションに富んでいて、ぼくは「ああなるほど、こういう手があったのか。こういう手管を自分の原稿に取り入れられないものだろうか」などと考えながら、手に汗にぎりつつ楽しみました。出演はジャン=ルイ・トランティニャン、マリー=フランス・ビジェ、クリスチャン・バルビエール等。シリアス部分とクスッとさせられる部分のバランスも絶妙です。マトリョーシカを見るような気分で楽しんでいただけたらと思います。
ロブ=グリエ、没後10年。再評価の時期が訪れました。165.png



by haradakazunori | 2018-10-19 09:38 | 映画

『Workers 被災地に起つ』トークイベント

9月21日にここで紹介した映画『Workers 被災地に起つ』が10月20日から公開されますが、東京「ポレポレ東中野」で16日間連続のトークイベントが行なわれることが決まりました。連日、監督や映画の登場人物はじめ、著名人や、ワーカーズコープゆかりの方々が登場予定とのこと。
詳しい情報はこちらへ。
地方劇場公開も全国各地で続々決定中で仙台/チネ・ラヴィータ(11/23〜)、北海道/札幌シアターキノ(12/8〜)、新潟/シネ・ウインド(12/8〜)となっています。とくに北海道、東北と縁のある方は特にいろいろ考えさせられる内容だと思います。179.png




by haradakazunori | 2018-10-18 09:36 | 映画

ぼけますから、よろしくお願いします。

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ドキュメンタリー映画「ぼけますから、よろしくお願いします。」の試写に行きました。監督・制作は数多くのドキュメンタリー番組を手がけてきた信友直子氏。舞台は広島県呉市です。
「私」(信友氏)は文学好きの父、カメラ好きで書道にも才能を発揮する母の一人娘として育ち、18歳で上京しました。45歳のときに乳がんが見つかり、その頃から自分や両親の姿を定期的に記録していくのですが、歳月を経るうちに、母に異変が起きていることに気付きます。さっき会った人やしゃべったことを覚えていない、などなど。母は認知症と診断されました。「私」は介護のために故郷に戻ることも考えましたが、父は「自分が介護する」と言いました。つまり95歳の夫が、87歳の妻をケアしていくのです。
もちろんそれが必ずしも順調にいくわけではありません。ヘルパーの助け、医師のアドバイスを得ながらの、申し訳ない表現ですが実にあぶなっかしい“二人三脚”です。「親がこういう状態になった時、自分は果たしてどんな行動をとれるか」、「自分がこういう状態になった時、子供たちはどう動いてくれるだろうか」・・・見るひとそれぞれの立場に、この作品は真実をつきつけてきます。
2016年にフジテレビ/関西テレビの「Mr.サンデー」で直収され、翌年、追加収録文を加えてBSフジで放送されたものをベースに、さらに取材と再編集を行なった完全版です。11月3日よりポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー。




by haradakazunori | 2018-10-12 10:04 | 映画

Workers 被災地に起つ

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映画『Workers 被災地に起つ』(監督;森康行)の試写に行きました。
これは「ワーカーズコープ」に関するドキュメンタリーです。日本語にすると「労働者協同組合」。働く人や市民がみんなで出資し、民主的に経営し、責任をわかちあい、人と地域に役立つ仕事をおこす協同組合のことですが、現在の日本にはワーカーズコープを規定する法律はないそうです。
舞台となるのは岩手県の大槌町、気仙沼市、宮城県の登米市、亘理町。2011年3月に起きた震災、その爪痕がまだまだ残る街に、「放課後の子供、障碍児を預かってくれる場を」、「お年寄りが安心して暮らせる場を」、「地元の資源を生かした地域の復興を」といったリクエストが寄せられます。それはやがて「誰もが集える地域の拠点へ」「地域の魅力を生かした村の復興へ」へと発展していきます。「仕事は与えられるものではなく、自分で作り出すもの」という言葉も印象に残りました。
元飛行機整備士が、津波に関する話をするところも忘れられない場面のひとつです。建物の3階に避難したが、2階まで水が来て、やがてものすごい数の人が水面に浮かび始めた・・・という内容だったと思います。退職した後、いかにしてこの「ワーカーズ」とのつながりを得るに至ったか、そのあたりも見どころのひとつといえましょう。
ハンディキャップがどうとか世代の差を超えて、人々がひとつになった時に生まれる強いちから、それを味わわせてくれる作品です。最近の日本はとみに強力な台風や地震におそわれることが増えているように思います。東北在住以外の方にも、決して他人ごとではないはずです。10月20日から東京・ポレポレ東中野、11月23日から仙台・チネ・ラヴィータほか全国順次公開。165.png






by haradakazunori | 2018-09-21 11:30 | 映画

あまねき旋律(しらべ)

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映画「あまねき旋律(しらべ)」の試写にいきました。山形国際ドキュメンタリー映画祭・アジア千波万波部門の奨励賞・日本映画監督協会賞らを受賞。監督はアヌシュカ・ミーナークシ、イーシュワル・シュリクマール。
邦題通り、ここには音楽が溢れています。舞台はインド島北部、ミャンマー国境付近のナガランド州。雄大な風景と共に、村人たちの“ワーク・ソング”が大きくフィーチャーされます。ひとりが声を発すると、もうひとりが歌いはじめ、やがてそれが広がっていき、壮大なポリフォニーになります。いわゆる「全員まとまっての休符」はありません。さまざまなモティーフやメロディが重なって、渦を描くようにして高まっていく・・・という印象を受けたのですが、当の村人たちは手を休めることなく、決して音楽にのめりこむことなく、ごく淡々と、ポリフォニーを紡ぐのです。
途中、村人の話やナガランド州の歴史も紹介されます。1955年から57年にかけてインド軍が行なった虐殺や略奪、その後も続いた武力闘争についても映像を挿入しつつ触れられていますが、そこだけ「無音」なのも、すごい説得力です。音のような尊いものを、そんな場面につけてたまるか、という監督のスピリットをぼくは感じました。10月6日からポレポレ東中野ほか全国順次公開。169.png





by haradakazunori | 2018-09-12 10:45 | 映画

バッド・ジーニアス 危険な天才たち

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映画「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」の試写にいきました。タイ・アカデミー賞で史上最多12部門を獲得したヒット作です。監督のナタウット・プーンピリヤは、これが長編2本目だそうです。
ぼくは、これから見る映画の過程や結末を誰かがしゃべろうが気にする性格ではありません(自分がどう見て、何を感じたかは自分以外の誰にも属さない経験なのですから)、しかしこれは「ネタバレ」超厳禁、心をまっさらぴんの状態にして、130分のあいだ、手に汗を握りつづけることこそ最上の鑑賞法ではないかと思います。
メインとなる出演者は、有名進学校に通う4人。頭脳がすこぶる明晰な女子リンと男子バンクは奨学金を得て入学しています。苦学生といっていいでしょう。そして金持ちの家に生まれてぜいたく放題の女子グレースと男子パット。このふたりの成績はいまいちですが、カネですべてを可能にできると信じ込んでいるようです。
4人の人間模様、スリリングなカメラ・ワーク、リンと西洋人との攻防などなど、オーストラリアでの収録も交えつつ、すさまじい迫力で物語が進みます。28分間にわたるカンニング・シーンは、「ひとの答案を盗み見る」カンニングが遥か石器時代のものであることを示し、昭和に学生時代を送ったひとならきっと“カンニング・テクニックの進化と発展”に、唖然とするに違いありません。
ぼくは昨年、タイにいきました。スクリーンを見ていると、そのときに味わったタイ語のイントネーション、人々の肌のつやっとした感じ、足の長さ(タイのひとたちは、スタイルがいいという印象が強いです。ちなみにリンは176?の9頭身)も思い出して、いっそうこの作品に親しみを覚えました。9月22日から新宿武蔵野館でロードショー。172.png




by haradakazunori | 2018-09-06 12:23 | 映画

音楽ライター/ジャーナリスト、原田和典のブログです。
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