「原田和典 note」

囚われた国家

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映画『囚われた国家』の試写に行きました。監督はルパート・ワイアット(『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』)、脚本はワイアットとエリカ・ビーニーが共同執筆しています。
まず、クローズアップされるのは2018年のシカゴです。エイリアンの侵略によって、この街は大混乱に陥りました。ある一家4人は自動車で脱出する途中にエイリアンに襲われ、幼い兄弟ふたりだけが生き残ります。
続いて「物語の舞台」、2027年の風景が描かれます。人間に代わってエイリアンの天下となり、人間はアメリカ政府の指令によってエイリアンの下で働かされます。エイリアンに服従する人間は富裕層となり、体制にあらがう人間は貧民層に。アメリカ政府は「反体制者に関する密告」を奨励するばかりかドローンで人々を監視し、エイリアンに媚びを売りまくります。
おい人間ども、それでいいのかよ。戦うときは戦えよ。なにヘラヘラ媚びてんだよ。
多面的にして紆余曲折ある展開ですが、ぼくは心を熱くして見ました。特捜司令官役のジョン・グッドマン、生き残り兄弟が大人になった役を演じるアシュトン・サンダースの好演にも目を見張らされます。ワイアット監督はジャン=ピエール・メルヴィル『影の軍隊』、ジッロ・ポンテコルヴォ『アルジェの戦い』から大きなインスピレーションを得たとのこと、その2作品を見てから劇場に足を運ぶのも趣深いと思います。4月3日からイオンシネマほか全国公開。149.png




# by haradakazunori | 2020-03-23 10:57 | 映画

凱里(かいり)ブルース

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映画『凱里(かいり)ブルース』の試写に行きました。『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』がセンセーションを巻き起こしているビー・ガン監督、記念すべき第1回長編作品です。『ロング~』の評判がきっかけとなって、こちらも日本上映が実現したのは嬉しさにたえません。
『ロング~』では鮮やかな色使い、意表突きまくりのカメラ・ワーク、後半1時間にわたる驚異の一発録り(視聴者は3Dメガネをかける)などで鮮烈な印象を与えてくれましたが、このデビュー作でも「おやまあ」「ここをこう撮るのか」「まだひとがしゃべっているのに、もうカメラはここに行くの?」「このミキシングはどうやって?」的な面白さにあふれています。しかし奇をてらった印象がまったくないのは、物語(脚本も彼が担当)そのものが持つ気取りのなさ、ほとんどがアマチュアであるという俳優たちの充実にも理由があるのでしょう。ロック・バンドの演奏シーンも実に興味深いです。
ボン・ジュノやギエルモ・デル・トロも称賛、ロカルノ国際映画祭で「中国映画を50年進歩させる逸材」といわれたビー・ガン監督。彼が借金と周囲の援助で完成させたというデビュー作は、4月18日から東京・シアターイメージフォーラム他にて全国順次ロードショー。169.png




# by haradakazunori | 2020-03-19 08:56 | 映画

グリーン・ライ ~エコの嘘~

 
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映画『グリーン・ライ ~エコの嘘~』の試写に行きました。監督はウェルナー・ブーテ、ガイド役は彼と環境ジャーナリストのカトリ―ン・ハートマン(『猫の感染症』という本も書いています)です。ふたりがブラジル、アメリカ、ドイツ、インドネシア島をまわり、企業や環境ジャーナリストや学者や現地の住民のところに赴き、“スーパーで見かける「環境にやさしい」商品は本当に環境にやさしいのか?”“「サステナブル」(=持続可能な)商品は本当にサステナブルなのか”などの疑問をぶつけていきます。
核の一つはパーム油をめぐる問題です。スナック菓子や洗剤のパッケージを裏返すとかなりの高確率でパーム油という文字が記載されているのですが、2015年に発生したインドネシアのスマトラ島で起きた熱帯雨林火災が、この“パーム油”と関係があり、さらにそれが1社によって人為的になされたというのです(つまり放火)。企業はパーム油の原料となるアブラヤシの農園用の土地を確保するため、その前段階として熱帯雨林を焼きつくしたのです。その結果10万人以上が死亡し、50万人以上が煙霧によって苦しんでいるとか。そこまでしてパーム油を作りたいのか、なぜだ、とぼくはまず思いながら画面に見入ったのですが、インドネシアにとってパーム油はとにかく巨大産業。“パーム油会議”では国一丸となってパーム油を推していく姿勢を明確にし、その会議中に大臣が環境活動家を非常に下品に愚弄するシーンもしっかり映画に収められています。
ここまで書いたところで映画の内容の5%も言いきれていないと思いますが、その他、メキシコ湾原油流出事故の処理のために使われた“海底に沈む有毒な石油分散剤”の話など、比喩ではなくて本当に吐き気を催すほどおぞましいものです。見ていてありがたかったのは、決して内容がマニアックなものでもヒステリックなものでもなかったこと。ブーテ監督が極めてフラットな目線で、「なぜパーム油に問題があるの?」「それはどうして?」など、大部分の視聴者の立場を代弁するようなシンプルな質問をカトリーンや企業関係者や学者に問いかけ、それに対して彼らが実にわかりやすい言葉で答えてくれるのです(翻訳もすっきりしています)。2009年に『プラスチック・プラネット』という映画も制作しているブーテ監督がマニアックなことを知らないわけはないのですが、とにかくこの問題への関心を深めてもらおうと、敷居を低くして、とにかくわかりやすく、“腑に落ちる”ように問いかけた作品という印象を受けました。3月28日よりシアター・イメージフォーラム他、全国順次ロードショー。




# by haradakazunori | 2020-03-12 09:52 | 映画

最高の花婿 アンコール

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映画『最高の花婿 アンコール』の試写に行きました。2014年制作のヒット作『最高の花婿』から久しぶりとなる続編で、いち早く公開されたフランスでは2019年の年間興行成績1位に輝きました。監督は前作に引き続いてフィリップ・ドゥ・ショーヴロン。
フランス・シノンにある名家、ヴェルヌイユ家(カトリック教徒)は4人の女の子を授かりました。それぞれ成長し、長女はアラブ人、次女はユダヤ人、三女は中国人、四女はコートジボワール(西アフリカ)人と結婚します。『アンコール』で描かれているのは、そんな前編の“後日譚”です。四兄弟は一歩町中に出れば(フランス人ではないがゆえに)差別的な言動を受けることが日常茶飯事です。「もう、海外に移住したい」。イスラエル、アルジェリア、中国、インドへの転居を考える四夫婦と、今まで通りの距離にいてくれることを望むヴェルヌイユ母の攻防は、ユーモラスな中に手に汗握るものがあります。
義兄弟となって久しい4人の男たちが肌の色や宗教の違いを超えて(=互いの違いを尊重し、相手に敬意を払い)和やかに語り合うシーンには胸のすく思いがしましたし、かつてあんなに頑固だったヴェルヌイユ父が、“見かけはそれぞれでも、みんな人間なんだよな”とばかりに、かなりおおらかな気持ちを持った人物になってきたのも見どころです。全員で食事をするシーンは、かつて自分がカンザス・シティで参加したパーティを思い起こさせました(そのときはアフリカ系、イタリア系、ユダヤ系、ラテン系、老人から幼児までいた)。
「肌の色や風習や信教の違いを超えて愛し、楽しむと、人生はこんなにカラフルになるんだよ」と改めて言われた気分になります。また、いわゆるLGBTに関してもしっかり目が配られており、そこも本作の要点のひとつと感じました。とわかってはいても、見ていけばいくほど自分がどんどん三男の中国人に感情移入していったことは告白せずにはいられません。飲食店でウェイターに「イエロー」をネタにした糞つまらないダジャレを言われ、武器を扱う店に入ったら頼んでもいないのに「ヌンチャク売り場はこっち」と指図されたり、それでも三男はクールに対応していきます。“かまわない”強さを、凛とした態度で教えてくれるのです。3月27日からYEBISU GARDEN CINEMAでロードショー、ほか全国順次公開。162.png




# by haradakazunori | 2020-03-11 12:25 | 映画

アーネット・コブ特集、延期になりました

神保町アディロンダック・カフェで3月7日開催予定の「アーネット・コブ特集」はウイルスのせいで延期です・・・。 nicheもsatchmoな気分です。アディロンさんは3月、4月のイベントをすべて中止/延期するとのこと。参加を予定されていた方には急な変更となりご迷惑をおかけしますが、ご理解ならびにご了承のほど何卒よろしくお願いいたします。新日程決定までお待ちを!



# by haradakazunori | 2020-02-29 12:00 | イベント

音楽ライター/ジャーナリスト、原田和典の文章や情報をお伝えします。
by harada kazunori

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