「原田和典 note」

mid90s

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映画『mid90s』が9月4日から東京・新宿ピカデリー、渋谷ホワイトシネクイント、グランドシネマサンシャインほか全国公開予定です。監督・脚本は俳優としても知られるジョナ・ヒル、音楽はなんとトレント・レズナー、アッティカス・ロスです。2019年アートフィルムフェスティバル ブルーエンジェル・監督賞など数々の賞を受賞しています。
ジョナ・ヒルは自らの監督デビューに際し、半自伝的な内容を選びました。舞台は1990年代中ごろのロサンゼルス。CDとカセットテープが共存していて、ヒップホップやポップスがことさらエキサイティングで、スーパーファミコンが魅力的で、エキサイティングな番組がブラウン管から流れていた、アナログ最後の輝きといえる時代です。主人公のスティーヴィーは当初、年上の少年たちのマスコット的存在といったところ。肌の色も考え方もさまざまの“兄貴”たちから良いことも悪いことも教わり、スポンジのようにどんどん成長していきます。成長の速度が早ければ早いほど軋轢も多くなるというもので、母親(彼は母子家庭です)や兄との齟齬もしっかり描かれています。むろん恋もします。ラスト20分ぐらいの矢継ぎ早の展開にびっくりし、最後の最後でほっとしました。
トレントとアッティカスが組んだ音楽からぼくは黒子感を感じましたが、とにかく「ありもの」の音楽が強力。ニルヴァーナ、サイプレス・ヒル、ファーサイド、ア・トライブ・コールド・クエスト、ピクシーズ等がかかります。またハービー・ハンコックの「ウォーターメロン・マン」は、74年発表『ヘッド・ハンターズ』からのヴァージョンです。90年代半ばのロスでは、この曲がリヴァイヴァルしていたのでしょうか?
すでに上映されて好評の『アルプススタンドのはしの方』は日本の夏の、かき氷やセミの声が似合う青春物語ですが、ロサンゼルス直送のこちらの青春物語もまた、笑えて甘酸っぱいです。音楽ファンに訴えることも間違いなしの快作といえましょう。157.png




# by haradakazunori | 2020-08-19 11:35 | 映画

シリアにて

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女性中心の家族(当然ながら武器を持たない)がシリアの首都ダマスカスの市街戦の脅威の中でどう過ごし、生き抜いていくか。でもこれもひとつのリアルなのです。熱くだらけがちの毎日、自分の行ないを内省させ、気持ちをひきしめてくれる作品がベルギー・フランス・レバノン合作映画『シリアにて』です。監督・脚本はベルギーの俊英フィリップ・ヴァン・レウ(かつてルワンダの大量虐殺を描いた『The Day God Walked Away』を監督)、出演は、女主人ウンム・ヤザンを演じるヒアム・アッバス(『ガザの美容室』でも印象的な演技を披露していました)、ディアマンド・アブ・アブード、ジョリエット・ナウィスほか。ベルリン国際映画祭2017パノラマ部門観客賞受賞、ベルギー・アカデミー賞(マグリット映画賞)2018では最多6部門に輝きました。
物語の舞台は2016年ごろ。基本的には、とあるアパートの一室での24時間にわたる出来事が描かれています。その一室がシェルター替わりになっているのです。一歩出ると射殺されるか、爆撃されるか。かといってそこも安全ではなく、強盗も押し入ってきます。戦争中に強盗が襲ってくる、というシチュエーションは、正直言ってぼくには「自分の人生経験では想像を超えすぎている、だけどとんでもなくすごい状況なんだろう」とハラハラするのが精いっぱいなのですが、女性たちは毅然としています。
戦闘シーンも爆撃シーンも画面には登場しません。ですが、音の迫力、登場人物の表情が、そのひどさ、卑怯さを伝えます。その部屋以外から聞こえる音が、すべて登場人物の抱く恐怖とダイレクトに繋がり、その“恐怖の波動”はしっかりこちらにも伝わってきます。そして小さい子供が何人いようが知るか俺は喫煙を貫くんだとばかりにタバコばかり吸っているウンム・ヤザンの老いた義父の、なんともいえない不気味さも物語の重要な要素であると感じました。
今世紀最大の人道危機といわれるシリア内戦は2011年に始まり、今も終わっていません。死者は民間人も含めて少なくとも38万4000人にのぼっているそうです。映画とは告発なり、と思いました。8月22日から岩波ホールほか全国順次公開。165.png





# by haradakazunori | 2020-08-10 11:27 | 映画

赤い闇 スターリンの冷たい大地で

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実話をもとにした、緊張感だらけの物語です。ポーランド・ウクライナ・イギリス合作映画映画『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』が8月14日から全国公開されます。監督はアグニェシュカ・ホランド、原案・脚本アンドレア・チャルーパ、音楽アントニ・コマサ=ワザルキェヴィッチ、主演の記者ガレス・ジョーンズにはジェームズ・ノートンが扮します。
ガレスは元英国首相ロイド・ジョージの外交顧問、ウェールズ出身の実在したジャーナリストです。1933年、彼は「世界恐慌のなか、どうしてソ連は反映しているのか」「国家予算の資金源はどこか」などの疑問にかられ、スターリンが統治するソビエト連邦に入り込みます。そこに至るまでの苦労、入り込んでから宿を確保するまでの一挙一動、この前半部分からすでにハラハラさせられます。計画通りにいかないことが山ほど降り積もる中、彼はトンチとアドリブ能力でどうにかのりきっていくのですが、いつ命を奪われてもおかしくない状況という感じがしました。物語中でも語られているように、ガレスはヒトラーに取材したことがあるそうです。ヒトラー内閣が始まったのは、1933年の1月の末。この映画は同じ33年の物語ですから、そう考えるとガレスとヒトラーの出会いは32年以前と考えた方が自然でしょうか・・・。
モスクワでジャーナリスト仲間の死を知ったガレスは、やがてウクライナに問題の鍵があることをかぎつけます。雪景色の中に彼が見た者は、そして彼は無事その風景を写真やペンに収め、英国に戻ることができるのか。ピュリッツァー賞をとったという触れ込みの御用記者、ウォルター・デュランティ(ピーター・サースガードが扮します)との静かなる確執も見どころです。
キャブ・キャロウェイのヒット曲「ミニー・ザ・ムーチャー」(誰のカヴァー・ヴァージョンでしょうか)など、ジャズの生演奏の登場する場面もあります。33年のソ連といえども、ちょっとアンダーグラウンドなところではジャズが流れ、アフリカ系のエンターテイナーが歌や踊りを披露していた、ということを示しているのでしょう。
とにかくスリリングな作品でした。自分もジャーナリストのはしくれとして、冷水をぶっかけられたような思いです。144.png





# by haradakazunori | 2020-08-09 11:11 | 映画

雑誌・書籍情報

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「レコード・コレクターズ」最新号に書いています。グレゴア・マレ&ビル・フリゼール&ロマン・コラン等。
「ミュージック・マガジン」最新号に書いています。特集「ブラック・ライブズ・マター」の1920~40年代編ほか、いろいろです。
「HiVi」最新号に書いています。今回の連載「東京ライブストーリー」は「多摩あきがわ #ライブフォレスト Vol.1」についてです。
「ジャズジャパン」最新号に書いています。これまで以上に新鮮な視点によるアート・ブレイキーの記事ほか。
「ブルース&ソウル・レコーズ」最新号に書いています。力道山とアール・グラントとザ・ワンダラーズのつながりなど。
ミュージック・マガジン増刊「坂本真綾 In MUSIC MAGAZINE」も絶賛発売中です。偉大な歌手・声優・文章家の全貌に迫る一冊です。私はインタビュアーの一人として参加しています。
原田和典・著『コテコテ・サウンド・マシーン』(スペースシャワーブックス)もがんがん売っています。素晴らしい本です。面白いですよ。失望させません! 169.png





# by haradakazunori | 2020-07-21 09:43 | 書籍・雑誌

大海原のソングライン

 
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映画『大海原のソングライン』が8月1日から東京・シアターイメージフォーラム、愛知・名演小劇場ほかで順次公開予定です。
音楽プロデューサーで映画監督のティム・コール、プロデューサーのバオバオ・チェンが意気投合して、この企画は生まれました。およそ5000年前、海を渡り、東は太平洋のイースター島、西はインド洋のマダガスカルに至る土地に根付いた人々。その子孫たちが暮らす16の島国に残る伝統的な音楽とパフォーマンスをドキュメンタリーとして記録しようではないか、ということです。
ぼくは、“ひょっとしたら「古典保存会」「今よみがえる伝統芸能」のようなものを、人間国宝的な老人が出てきて次々と聴かせていくのかな”と予想して見に行ったのですが、予想は快く裏切られました。各地の人々が、生き生きとして、現在の息吹がしっかり注ぎ込まれた大衆音楽を表現しているのです。もっとも「あなたのやっているものは大衆音楽なのですか? 古式ゆかしき伝統音楽なのですか?」と各人に問えば、その答えはバラけてくると思いますが、表現は現在形、博物館入りを拒否した音といっていいと思います。そして感じたのが「ヒップホップの持つ浸透力の強さ」です。
もちろん音質も画質もミキシングも、こうしたフィールド・レコーディングものでは極上のレベルといっていいと思います。“かつて同じ言葉や音楽で繋がっていた島々の歌をもう一度集結させる”という志は、テクノロジーの真価と手と手をとりあいながら、この映画に結実したのです。169.png




# by haradakazunori | 2020-07-16 11:21 | 映画

音楽ライター/ジャーナリスト、原田和典の文章や情報をお伝えします。
by harada kazunori

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